「近所の野良猫の耳が、V字に切れている」。それを見て、ケガ? 虐待? と心配になって検索された方も多いと思います。「まさか誰かが傷つけたのでは」と不安になりますよね。ええ、わかります。
まず結論から。あの耳は「不妊去勢手術が済んでいます」というしるしで、手術中の麻酔が効いている間にカットされたものです。痛みに苦しんだ傷ではありませんし、いたずらでもありません。不妊去勢手術を専門とする獣医師の立場から、耳カットの意味と「かわいそうなのか」という疑問に、この記事でしっかりお答えします。見た目のインパクトだけで判断されがちなんですけどね。
この記事でわかること
- ✓ 耳のV字カット(さくらねこ)は「不妊去勢手術済み」のしるしで、麻酔中に行うため痛みがないことがわかる
- ✓ 耳カットが必要な理由(同じ猫が二重に捕獲・麻酔されるのを防ぐため)がわかる
- ✓ オス右耳・メス左耳という左右の意味と、ケンカの傷との見分け方がわかる
この記事の目的:猫の耳カットの意味と「かわいそうではないか」という疑問に答えること
対象読者:近所で耳の欠けた野良猫を見かけ、心配になった方
読み終えると:耳カットの意味がわかり、安心して見守れるようになります
耳カットは「手術済み」のしるし

耳の先が桜の花びらのようにV字にカットされた猫は「さくらねこ」と呼ばれます。飼い主のいない猫を捕獲し、不妊去勢手術をして元の場所に戻すTNR活動のなかで、手術済みであることを外から見てわかるようにするための目印です。
手術をしても、外見だけでは手術済みかどうか判別できません。とくにメスの避妊手術は開腹手術ですが、毛が生えそろえば傷はまったくわからなくなります。だからこそ、遠くからでも確認できる耳の目印が必要になるんですよ。
なぜ耳カットが必要なのか

理由はただひとつ、同じ猫がもう一度捕まえられて、無駄な麻酔をかけられるのを防ぐためです。
TNR活動では捕獲器で猫を捕まえますが、猫は「自分が手術済みです」とは言えません。もし目印がなければ、すでに手術した猫をまた病院へ運び、開腹してから「手術済みだった」とわかります。猫にとって、これほど無意味で負担の大きいことはありません。
耳カットは「この子はもう手術が済んでいます。捕まえないで、そのまま見守ってください」という、猫自身を守るためのサインなのです。
・・・当の猫は、そんな深い意味など知る由もありませんが。
かわいそう?痛くないの?

いちばん多くいただく質問です。獣医師としてお答えすると、こうなります。
- カットは不妊去勢手術の麻酔が効いている間に行います。カットの瞬間に痛みはありません
- 耳先の処置なので出血はわずかで、日常生活への影響もありません。聴力にも関係ありません
- カットのためだけに麻酔をかけることはありません。あくまで手術とセットです
それでも「見た目がかわいそう」と感じる方はいらっしゃると思います。その気持ちは自然なものです。ただ、比べてほしいのは「耳の先が少し欠けていること」と「二度目の捕獲と麻酔・開腹のリスク」です。猫の負担で考えれば、答えははっきりしています。むしろ耳カットのある猫は「地域の人に見守られながら、一代限りの生涯を生きている猫」です。私は、あの桜の形はその子が大切にされてきた証だと思っています。
「見た目の変化」と「二度目の捕獲・麻酔」、どちらの負担も実在するものです。環境省の事例紹介ページでも、地域猫活動のなかで手術済みであることが外から判断できる措置として耳カットを行い、地域に戻す取り組みが紹介されています。目印をつけるという判断は、動物福祉の考え方からしても、猫にとって負担の少ないほうを選んだ結果、というわけなんですよ。
耳カットは誰がいつ行うのか
耳カットは、不妊去勢手術を行う動物病院で、獣医師が麻酔下で行う処置です。保護活動をしている方や飼い主さんが自分で耳を切るようなことはありません。カットのためだけに麻酔をかけることもなく、あくまで手術と同時に行われます。
費用については、耳カットそのものというより、不妊去勢手術全体の費用として考えるのが実情です。どうぶつ基金の無料チケットや自治体の助成制度を使って工面している団体も多く、詳しくはTNRの費用と流れの解説記事のほうにまとめていますので、そちらもあわせてどうぞ。
右耳と左耳で意味が違う

じつはカットする耳は左右で使い分けられています。どうぶつ基金の基準では、オスは右耳、メスは左耳をカットします。外から性別まで判別できるようにするための工夫です。
ただし、この左右のルールは地域や団体によって運用が異なる場合があります。左右が逆でも「手術済みのしるし」という意味は変わりません。覚え間違えても・・・、猫にとっては大した問題じゃないんですよね。
ケンカの傷との見分け方

野良猫は縄張り争いで耳にケガをすることもあります。見分けるポイントは切り口です。
- 耳カット(さくらねこ) …… 切り口がまっすぐで、きれいなV字。左右どちらか片方だけ
- ケンカや凍傷の傷 …… 切り口がギザギザ・不規則。かさぶたや腫れを伴うことも
きれいなV字なら手術済みのさくらねこです。安心して見守ってあげてください!
術後に見ておきたいこと
手術と耳カットを終えて元の場所に戻したあとも、しばらくは様子を見てあげてくださいね。次のような様子が続くようなら、動物病院に相談することをおすすめします。
- 耳の傷口から出血が続いている
- 傷口をしつこく気にして掻いたり舐めたりしている
- 手術から数日たっても食欲や元気が戻らない
多くの場合、耳カットは手術全体の一部として問題なく治っていきます。ただ、心配な様子が見られるときは自己判断で様子を見続けず、専門家に診てもらうのが安心だと思います。
耳カットの猫を見かけたら

さくらねこは、地域の誰かがお金と時間をかけて手術を受けさせた「地域猫」です。見かけると、つい二度見してしまう方もいるかもしれませんが、見かけたときは、次のことを心に留めてもらえたらうれしいです。
- 捕まえたり追い払ったりせず、そっと見守る。これ以上増えることはありません
- 餌をあげたい場合は、置き餌はせず、地域のルールや餌やりをしている方の活動を尊重する
- ケガや衰弱など気になることがあれば、地域の保護団体や自治体の担当課に相談する
まとめ

この記事のまとめ
- ✓ 耳のV字カットは「不妊去勢手術済み」のしるし。さくらねこと呼ばれる
- ✓ 麻酔中に行うので痛みはなく、二度目の捕獲・麻酔から猫を守るためのもの
- ✓ オスは右耳・メスは左耳が基本(団体により異なる場合あり)
- ✓ きれいなV字ならケガではない。安心して見守ってOK
- ✓ 耳カットは動物病院で獣医師が麻酔下に行う処置で、保護活動者が自分で行うものではない
よくある質問
Q. 耳カットをすると猫は痛がりますか?
A. 痛みはありません。耳カットは不妊去勢手術の麻酔が効いている間に行われ、カットのためだけに別に麻酔をかけることはありません。出血もわずかで、聴力や日常生活への影響もないとされています。
Q. なぜ耳を切る必要があるのですか?見た目でわからないほうがいいのでは?
A. 目印がないと、すでに手術済みの猫が再び捕獲され、無駄な開腹手術と麻酔を受けることになりかねません。耳カットは「もう手術は済んでいます」と外から伝え、猫自身を二重の負担から守るためのサインです。
Q. 耳カットのある猫を見かけたら、どうすればいいですか?
A. 捕まえたり追い払ったりせず、そっと見守ってください。餌をあげたい場合は置き餌をせず地域のルールを尊重し、ケガや衰弱が気になるときは地域の保護団体や自治体の担当課に相談するとよいでしょう。
Q. 耳カットは保護活動をしている人が自分で行ってもいいのですか?
A. いいえ。耳カットは不妊去勢手術を行う動物病院で、獣医師が麻酔下で行う処置です。保護活動をしている方やボランティアが自分で耳を切ることはありません。
Q. 見た目が変わってしまうのは、やはりかわいそうではないでしょうか?
A. 見た目の変化を気にかける気持ちは自然なものだと思います。一方で、目印がなければ同じ猫が繰り返し捕獲・麻酔・手術の対象になりかねません。どちらの負担も実在するものとして受け止めたうえで、現場では猫の体への負担が少ないほうとして目印を選んでいる、というのが実情です。
耳カットの前提になっているTNR活動そのものについては、TNRの費用と流れの解説記事で詳しく書いています。「近所の猫たちにも手術を受けさせたい」と思った方は、そちらも参考にしてくださいね。
※耳カットの左右などの運用は地域・団体により異なる場合があります。個別の猫の健康状態については、お近くの動物病院や保護団体にご相談ください。