「近所の野良猫の耳が、V字に切れている」——それを見て、ケガ? 虐待? と心配になって検索された方も多いと思います。
まず結論から。あの耳は「不妊去勢手術が済んでいます」というしるしで、手術中の麻酔が効いている間にカットされたものです。痛みに苦しんだ傷ではありませんし、いたずらでもありません。不妊去勢手術を専門とする獣医師の立場から、耳カットの意味と「かわいそうなのか」という疑問に、この記事でしっかりお答えします。
耳カットは「手術済み」のしるし
耳の先が桜の花びらのようにV字にカットされた猫は「さくらねこ」と呼ばれます。飼い主のいない猫を捕獲し、不妊去勢手術をして元の場所に戻すTNR活動のなかで、手術済みであることを外から見てわかるようにするための目印です。
手術をしても、外見だけでは手術済みかどうか判別できません。とくにメスの避妊手術は開腹手術ですが、毛が生えそろえば傷はまったくわからなくなります。だからこそ、遠くからでも確認できる耳の目印が必要なのです。
なぜ耳カットが必要なのか
理由はただひとつ、同じ猫がもう一度捕まえられて、無駄な麻酔をかけられるのを防ぐためです。
TNR活動では捕獲器で猫を捕まえますが、猫は「自分が手術済みです」とは言えません。もし目印がなければ、すでに手術した猫をまた病院へ運び、開腹してから「手術済みだった」とわかる——猫にとってこれほど無意味で負担の大きいことはありません。
耳カットは「この子はもう手術が済んでいます。捕まえないで、そのまま見守ってください」という、猫自身を守るためのサインなのです。
かわいそう?痛くないの?
いちばん多くいただく質問です。獣医師としてお答えすると——
- カットは不妊去勢手術の麻酔が効いている間に行います。カットの瞬間に痛みはありません
- 耳先の処置なので出血はわずかで、日常生活への影響もありません。聴力にも関係ありません
- カットのためだけに麻酔をかけることはありません。あくまで手術とセットです
それでも「見た目がかわいそう」と感じる方はいらっしゃると思います。その気持ちは自然なものです。ただ、比べてほしいのは「耳の先が少し欠けていること」と「二度目の捕獲と麻酔・開腹のリスク」です。猫の負担で考えれば、答えははっきりしています。むしろ耳カットのある猫は「地域の人に見守られながら、一代限りの生涯を生きている猫」です。私は、あの桜の形はその子が大切にされてきた証だと思っています。
右耳と左耳で意味が違う
じつはカットする耳は左右で使い分けられています。どうぶつ基金の基準では、オスは右耳、メスは左耳をカットします。外から性別まで判別できるようにするための工夫です。
ただし、この左右のルールは地域や団体によって運用が異なる場合があります。左右が逆でも「手術済みのしるし」という意味は変わりません。
ケンカの傷との見分け方
野良猫は縄張り争いで耳にケガをすることもあります。見分けるポイントは切り口です。
- 耳カット(さくらねこ) …… 切り口がまっすぐで、きれいなV字。左右どちらか片方だけ
- ケンカや凍傷の傷 …… 切り口がギザギザ・不規則。かさぶたや腫れを伴うことも
きれいなV字なら手術済みのさくらねこです。安心して見守ってあげてください。
耳カットの猫を見かけたら
さくらねこは、地域の誰かがお金と時間をかけて手術を受けさせた「地域猫」です。見かけたときは、次のことを心に留めてもらえたらうれしいです。
- 捕まえたり追い払ったりせず、そっと見守る。これ以上増えることはありません
- 餌をあげたい場合は、置き餌はせず、地域のルールや餌やりをしている方の活動を尊重する
- ケガや衰弱など気になることがあれば、地域の保護団体や自治体の担当課に相談する
まとめ
この記事のまとめ
- ✓ 耳のV字カットは「不妊去勢手術済み」のしるし。さくらねこと呼ばれる
- ✓ 麻酔中に行うので痛みはなく、二度目の捕獲・麻酔から猫を守るためのもの
- ✓ オスは右耳・メスは左耳が基本(団体により異なる場合あり)
- ✓ きれいなV字ならケガではない。安心して見守ってOK
耳カットの前提になっているTNR活動そのものについては、TNRの費用と流れの解説記事で詳しく書いています。「うちの近所の猫たちにも手術を受けさせたい」と思った方は、そちらも参考にしてください。
※耳カットの左右などの運用は地域・団体により異なる場合があります。個別の猫の健康状態については、お近くの動物病院や保護団体にご相談ください。