「猫がマダニに咬まれてSFTSになったらどうなるの」「猫から人にうつることはあるの」。そんな疑問に答えます!
SFTS(重症熱性血小板減少症候群)はマダニが媒介するウイルス感染症で、人だけでなく猫や犬もかかります。まれに、発症した猫との接触を通じて人へ感染することもあるため、地域猫活動やTNRの現場でも知っておきたい病気なんですよ。
「そもそも病名が長すぎて覚えられない」。ええ、わかります。略称のSFTSで十分ですし、覚えておきたいのは名前より付き合い方のほうなんですよね。
私は大分県で不妊去勢手術を専門とする獣医師で、長崎でも地域猫の活動に関わっています。この記事では、公的機関が公表している情報をもとに、猫のSFTSについて知っておきたいことを整理していきますが、身構えすぎずに読んでもらえたらと思います。
SFTSとはどんな病気か

SFTSは、マダニに咬まれることで感染するウイルス感染症です。
潜伏期間は6日から2週間程度とされていますが、人から人への感染や、猫に咬まれた場合はより短いことがあると報告されています(厚生労働省のSFTSに関するQ&A)。
大分県の案内でも、潜伏期間は6〜14日、致死率は10〜30%とされており、軽く見てよい病気ではありません。
病名もウイルス名も長くて読みにくいのですが、専門用語を我慢してもらうのはこの章までです(書いている側も舌を噛みそうです)。
人に出る症状
人がSFTSを発症すると、発熱や消化器症状(食欲不振・吐き気・嘔吐・下痢・腹痛)が主な症状として現れます。まれに頭痛や神経症状、出血症状を伴うこともあります。
日本国内の患者の致命率は27%と報告されており(中国では10%程度という報告もあります)、インフルエンザなどの一般的な感染症と比べても、決して軽い数字ではないんですよね。
猫に出る症状
猫の場合も、元気がなくなる・食欲が落ちる・発熱といった、他の病気でもよく見る症状が中心とされています。症状だけでSFTSかどうかを見分けるのは難しいので、診断は動物病院での検査にゆだねることになります。
猫から人にうつることはあるのか

結論からいうと、猫から人へ感染する可能性はゼロではありませんが、経路は限られています。
厚生労働省のQ&Aでは、ネコに咬まれた場合や、発症した動物の体液などとの直接接触が原因と考えられる感染事例が報告されているとされています。一方で、発症していない猫からの感染報告はこれまでにありません。
報告のある経路と、報告のない経路
- 報告のある経路……発症した猫に咬まれる。発症した猫の血液や唾液などの体液に直接触れる
- 報告のない経路……発症していない健康な猫との日常的なふれあい。屋内のみで飼われている猫からの感染
長崎県の案内ページでも、健康な猫や屋内のみで飼育されている猫から人がSFTSウイルスに感染した事例はこれまでに報告がないとされています(長崎県の案内ページ)。
つまり、気をつける相手は「猫全部」ではなく、「体調を崩している猫」と「そのときの接し方」に絞られます。過度に心配しすぎる必要はありませんが、弱っている猫を素手で抱き上げるのは避けたい、というのが現実的な理解みたいです。
それに、猫はうつす側というより、人と同じマダニの被害者です。当の猫は、こちらの心配をよそに草むらを平気な顔で歩いていくんですけどね。
猫のSFTS発生状況の数字

国立感染症研究所(現・国立健康危機管理研究機構)の発生状況によると、国内のSFTS患者報告数は2025年7月31日時点で累計1,185例、うち届出時点での死亡例は126例(10.6%)です(国立感染症研究所の発生状況)。
診療にあたる獣医療従事者の感染も12例報告されており、うち1例が死亡しています。動物の体液に触れる機会が多い仕事ならではの数字で、同業として他人事ではないんですよね。
動物の発生も報告されています。2024年の報告では猫194頭・犬12頭がSFTSと確認されており、猫の致死率は62.5%と、人よりもさらに高い数字になっています。
人と猫の数字を並べてみる
| 対象 | 数字 | 出典・時点 |
|---|---|---|
| 人(国内の患者報告数) | 累計1,185例、うち届出時点の死亡126例(10.6%) | 国立感染症研究所・2025年7月31日時点 |
| 人(日本国内の致命率) | 27%(中国では10%程度の報告も) | 公的機関の報告(本文参照) |
| 獣医療従事者の感染 | 12例(うち1例が死亡) | 国立感染症研究所 |
| 猫 | 194頭、致死率62.5% | 2024年の報告 |
| 犬 | 12頭 | 2024年の報告 |
集計の方法や対象が違うため単純には比べられませんが、猫にとって重い病気だということは伝わるかと思います。
地域猫活動やTNRの現場で野良猫と接する機会が多い人にとっては、無視できない数字だと感じるんですよね。
発生地域の広がり
感染地域はこれまで西日本を中心に報告されてきましたが、2025年にはそれまで届出のなかった秋田県・神奈川県・岐阜県などからも届出があり、東日本にも広がりを見せています。
私が活動している大分や長崎のような西日本は、もともとSFTSの報告が多い地域にあたるため・・・他の地域以上に日頃から意識しておく必要があると感じています。
感染を防ぐためにできること

野良猫の保護やTNR活動をしていると、体調の悪そうな猫や弱っている猫に接する機会があります。次のような基本的な対策を徹底することが、猫にとっても人にとっても安心につながりますが、油断は禁物です。
- 体調の悪い猫・弱っている猫を素手で触らない……手袋を着用し、咬まれることや体液に直接触れることを避けます
- 捕獲・保護の作業後は必ず手を洗う……道具や手を清潔に保つことは、SFTSに限らず感染対策の基本です
- 猫に咬まれた・引っかかれたときは、自己判断せず医療機関を受診してください
- マダニが猫の体に付着しているのを見つけても無理に引き抜かない……大分県の案内でも、無理に除去せず動物病院に相談することが推奨されています(大分県の案内ページ)
捕獲器を使うTNRの基本的な流れは、素手で猫を押さえ込む場面そのものを減らせるという意味でも、感染対策の観点から理にかなったやり方だといえるんですよ。
作業の前・最中・あとのチェックリスト
やることは多くありませんが、順番に並べておくと抜けが減ります。
- 作業前……長袖・長ズボン・手袋を用意する。素手で猫を押さえる場面を減らす段取り(捕獲器を使うなど)を先に考えておく
- 作業中……弱っている猫を素手で触らない。咬まれたり引っかかれたりしやすい体勢で抱えない。マダニを見つけても、その場で取ろうとしない
- 作業後……手を洗う。衣服や靴にマダニが付いていないか確認する。使った道具やタオルは洗う
- 自分の体……帰宅後に、マダニが付いていないか体を確認する。咬まれた跡や体調の変化があれば医療機関へ
手袋と手洗い、それに駆除剤。地味な対策が効いているあいだは、獣医の出番が減ります。それで困る獣医はいないんですよ。
猫の側の対策
室内飼いの猫でも油断はできません。散歩や脱走の際にマダニが付着することがあるため、大分県のページではマダニ駆除剤による予防が推奨されています。
どの駆除剤をどの間隔で使うかは猫の年齢や体調によって変わるので、かかりつけの動物病院で相談してくださいね。
長崎県のページでも、動物との過度な接触を避けること、接触後の手洗い、マダニ駆除、動物の健康管理が予防のポイントとして挙げられています(長崎県の案内ページ)。
新しく保護した猫は、先住の猫と合流させる前に体をひととおり確認し、動物病院で診てもらうと安心です。マダニに限らず、他の寄生虫や感染症の確認にもなります。
人の側の対策
人自身のマダニ対策としては、長袖・長ズボンや足を完全に覆う靴を身につけ、肌の露出を少なくするのが基本らしいです。
マダニを見つけたときにやってはいけないこと
猫の体や自分の体にマダニが付いているのを見つけると、反射的に取りたくなります。でも、ここで慌てるとかえって危ないんですよ。
- 無理に引き抜かない……口の部分が皮膚に残ることがあるとされています。猫に付いたものは動物病院、人に付いたものは医療機関で処置してもらうのが安心です
- 指で潰さない……体液に触れる機会をわざわざ作ることになります
- 素手で触らない……取る・取らないにかかわらず、手袋をしてからにします
- 猫を押さえ込んで探さない……嫌がる猫を押さえると咬まれやすくなります。落ち着いているときに、撫でるついでに確認する程度で十分です
マダニは、吸血すると見違えるほど膨らむことがあります。毛の薄い顔まわり・耳の付け根・首・指の間あたりは、撫でるついでに見ておきたい場所といわれています。
夏の草むらで長袖・長ズボンを守るのは、正直つらいところです。
・・・マダニのほうは、涼しい顔で待っていますけどね。
体調の変化に気づいたら

猫がSFTSを含む何らかの感染症にかかると、元気消失・食欲不振・発熱などの症状が出ることがあります。普段と様子が違うと感じたら、自己判断せず早めに動物病院を受診してください。
「少し様子を見よう」は、受診を一日先に延ばす魔法の言葉みたいなものなんですよ。しかも効き目は一日しかもちません。
猫に咬まれた・引っかかれたあとに、自分自身に発熱や消化器症状(食欲不振・吐き気・嘔吐・下痢・腹痛)が出た場合は、猫との接触歴やマダニに咬まれた可能性を伝えたうえで、早めに医療機関を受診してください。
厚生労働省のQ&Aでも、こうした症状に関する最新の情報が随時更新されています(厚生労働省のSFTSに関するQ&A)。
受診のときに伝えること
メモにしてから行くと、診察室で慌てずに済みます。
- いつ、どこで(草むら・やぶ・活動している地域など)猫やマダニと接触したか
- 咬まれた・引っかかれた・体液に触れた、のどれに当てはまるか
- 相手の猫の様子(弱っていた、食欲がなかった、など)
- 症状が出はじめた日と、その後の変わり方
ありがちな見落とし
- 咬まれた傷が小さいからと、医療機関に行かずに済ませる
- 受診はしたものの、猫との接触やマダニのことを伝え忘れる
- 猫の食欲不振を「暑さのせい」と決めつけて、日にちだけが過ぎる
- 自分でマダニを取って潰してしまい、そのあと手を洗っていない
どれも、やってしまう気持ちはよくわかります。わかりますが、SFTSに関しては「念のため」の受診で損をすることはないんですよね。
まとめ

SFTSは決して珍しい病気ではなく、特に西日本では地域猫活動の現場に身近な感染症です。正しく知って、過剰に恐れず、基本的な対策を積み重ねることに尽きると思うんですよね。
「正しく恐れる」とよく言われます。まあ、その正しい加減がいちばんむずかしいんですけどね。手袋・手洗い・駆除剤・早めの受診。迷ったらこの4つに戻るのが、いちばん確かなやり方みたいです。
この記事のまとめ
- ✓ SFTSはマダニが媒介するウイルス感染症で、人だけでなく猫や犬も感染する
- ✓ 猫から人への感染は、発症した猫に咬まれる・体液に触れるなど限られた経路で起こる。健康な猫・室内飼いの猫からの感染報告はない
- ✓ 国内の患者報告数は2025年7月31日時点で累計1,185例、日本の致命率は27%。猫の致死率は2024年の報告で62.5%とされている
- ✓ 保護活動では手袋の着用・作業後の手洗い・マダニを見つけても無理に引き抜かないことが基本
※本記事の数値は各出典のページに記載された時点のものです(厚生労働省2025年11月21日作成分、国立感染症研究所2025年9月18日改訂分ほか)。発生状況や制度は今後変わる可能性があるため、最新の情報は各公式サイトでご確認ください。また、症状の現れ方には地域差・個体差があります。人の体調不良は医療機関へ、猫の体調不良は動物病院へ、早めにご相談ください。