「あの茶トラ、もう手術済みだったっけ?」。ええ、わかります。地域猫の世話を続けていると、だいたいこの疑問にぶつかりますよね。
結論から言うと、猫ごとに「見分けの特徴・写真・性別・推定年齢・手術の有無と日付・健康メモ」を1冊の台帳にまとめておけば、この疑問はほぼ片づきます。難しい書式は要りません。ノート1冊とスマホのカメラがあれば始められるんですよ。
私は大分県で不妊去勢手術を専門とする獣医師で、長崎でも保護猫・地域猫の活動に関わっています。この記事では、地域猫とはどんな活動かをひととおり知っている方に向けて、個体記録のつけ方を運用実務の視点で書きます。猫は撮影に協力する気がまったくなく、しかも似た柄がやたらと多いので、記録は思っているより手ごわいんですよ。
個体記録がないと起きやすい困りごと

地域猫活動は、不妊去勢手術をした猫を元の場所に戻し、一代限りの命を地域で見守る活動です(流れの全体像はTNRの基本にまとめています)。その前提として、「どの猫が手術済みで、どの猫がまだなのか」を把握できていないと、活動が少しずつ回らなくなっていくんですよ。
個体記録がないと、たとえば次のようなことが起こりやすくなります。
- 手術済みの猫を、もう一度捕獲器に入れてしまう
- 頭数は合っているのに、新顔の未手術の猫が混ざっていることに気づけない
- 世話をする人が変わったとき、猫の情報がまるごと抜け落ちる
- 自治体に猫の一覧を出す場面で、あわてて作ることになる
手術済みの目印になるのが耳カットですが、暗い場所や離れた場所では見落としやすいものです(意味や見え方は耳カットの解説で詳しく書いています)。目印と記録は、どちらか片方ではなく両方そろえておくと安心です。
私が活動している大分や長崎のような地方では、世話をする人が少人数で、記憶が担当者一人に集中しやすいと思います。「猫の顔は全部覚えている」という自信は、似た柄の猫が2匹目に現れた日に崩れます。たぶん私も例外ではありません。
台帳に残したい項目の例

ここで紹介するのは、公的な様式ではなく、「こういう項目があると便利」という一般的な例です。グループの規模や活動のしかたに合わせて、減らしても増やしても構いません。項目は少なめに始めるのがおすすめです!
| 項目 | 書く内容の例 | 補足 |
|---|---|---|
| 通し番号・呼び名 | 001、「ミケ子」など | 呼び名は関係者で共通に |
| 見た目の特徴 | 毛色・柄・しっぽの長さ・目の色 | 見分けの決め手を先頭に |
| 性別 | オス/メス/不明 | 子猫は判断しにくいことも |
| 推定年齢 | 子猫・若い猫・成猫など大まかに | 正確でなくてよい |
| 手術の有無と日付 | 未/済(年月日)、実施した病院 | 領収書や明細と照合しやすく |
| 耳カットの確認 | 確認した日と、見え方のメモ | 写真とセットで残す |
| 健康メモ | 目やに・くしゃみ・歩き方などの変化 | 気づいた日付を添える |
| 給餌場所・よく見る場所 | グループ内だけで通じる呼び名 | 住所は書かない |
| 写真 | 撮影日つきで正面・横・耳 | 古い写真は残して比べる |
表の下に補足しておくと、性別や年齢の判断に自信がないときは「不明」「推定」と書いて構いません。見分け方の目安は猫の性別・年齢の見分け方で整理しています。健康メモは診断ではなく、あくまで「いつ、何を見たか」の記録です。
最初から完璧な台帳を目指すと、たいてい記入欄が埋まる前に気力が尽きます(人間の習性です)。必要になったら足していくくらいが、ちょうどいいみたいです。
個体を見分けるための写真の撮り方

文章で毛色を書いても、「茶白」「サビ」「キジ白」と言われて全員が同じ猫を思い浮かべるとは限りません。写真は、台帳の中でいちばん頼りになる情報です。
- 正面 …… 顔と両耳の先が入るようにします。耳カットの確認にも使えます
- 横向き …… 全身の柄としっぽの長さが分かるようにします
- 背中側 …… 背中や腰の模様が特徴の猫は、後ろ姿も1枚残しておきます
- 撮影日 …… 写真ごとに日付をメモします。成長や体つきの変化を比べられます
撮るときは、猫が落ち着いているタイミングを狙い、明るい時間帯に少し離れた位置から撮ると、耳の先まで写しやすくなります。無理に近づくと逃げてしまうので、給餌の前後など、猫が自然に止まっているときが向いているんですけどね。
とはいえ、正面を撮ろうとすると、猫はなぜか毎回・・・お尻を向けてくれます。こちらの都合を一切考えないのは、生き物としてはたいへん筋が通っているんですけどね。
担当者が変わっても続く共有と更新のしかた

台帳は、つけること以上に「続くこと」と「引き継げること」が肝心です!次のような決まりを最初に置いておくと、続きやすくなります。
- 台帳は1か所にまとめ、活動の関係者が見られる形にする(紙ならファイル、データなら共有できる形)
- 更新するタイミングを決める(手術をした日・新顔を見た日・体調の変化に気づいた日)
- 新顔は、名前がなくても「仮番号」で先に登録し、あとから見直す
- 月に1回など、決まった間隔で頭数と写真を見直す
台帳が一人の頭の中にしかない状態は、鍵が1本しかない金庫のようなものです。その人が風邪を引いた日には、猫の情報も一緒に閉まってしまいます。
気になる変化があったときは、代表者や獣医師に共有しましょう。食欲や歩き方、目や鼻の様子などは、日付つきのメモと写真があると相談がスムーズです。診断は獣医師に任せて、見た事実だけを残しておけば十分なんですよ。
いつも来ていた猫が急に姿を見せなくなったときも、台帳があれば「最後に見た日」がすぐ分かります。考えられる理由は地域猫が来なくなった理由で整理しています。
猫の居場所や写真を扱うときの注意

台帳には猫の写真や、よく見かける場所の情報が集まります。ここは、書き方と見せ方にひと手間かけておきたいところです。
- 台帳は活動の関係者の間だけで共有し、不特定多数が見られる場所には載せない
- 給餌場所は、グループ内だけで通じる呼び名で書き、正確な住所は載せない
- 位置情報つきの写真をそのままSNSなどに出さない
- 写真に、人の顔・私有地・車のナンバーなどが写り込んでいないか確認する
- 世話をする人の連絡先と、猫の台帳は分けて管理する
猫のいる場所が広く知られると、猫にとっても、近隣の方にとっても、思わぬ形で人の目にふれることがあります。地域猫は「地域の理解のなかで見守る」ことが前提なので、記録の扱いも静かに、が基本なんですが、意外と忘れがちです。活動全体のルールについては地域猫活動と法律の記事も参考にしてください。
大分市で登録・助成申請のときに求められる記録

ここからは、私が活動している大分の例です(2026年9月時点)。大分市では、大分市動物愛護センター(福祉保健部衛生課)が地域猫活動グループの登録を案内しています。グループは世帯を別にする3人以上で構成し、活動する地域の住民から合意を得ていることが条件で、市に申請書と構成員名簿などを出し、審査を経て登録が決まります。活動内容は、不妊去勢手術・エサの管理・トイレの管理・パトロール・清掃などを、地域のルールに従って行うものとされています。
登録のときには、「管理している猫の一覧」の提出が必須とされています。つまり、台帳が最初から役に立つ場面です。
助成金についても、大分市の地域猫不妊去勢手術助成金の案内が出ています。令和8年度(2026年4月1日〜2027年3月15日予定)の内容では、対象は登録が完了した地域猫グループで、対象猫はグループで猫の登録が済み、動物病院で不妊去勢手術を受けた猫に限られます。助成額は1頭あたりオス1万円・メス2万円で、1グループ10頭までです(予算の執行状況により変更の可能性あり)。手術の前に、大分市動物愛護センターへ事前連絡が必要です。
申請書類として案内されているのは、次のとおりです。
- 交付申請書
- 不妊去勢手術を実施した猫一覧(別紙)
- 領収書または診療明細書
- 猫の写真(耳カットが確認できるもの・カラー印刷)
- 請求書
- 委任状(個人口座の場合)
普段の台帳に、手術の日と耳カットが分かる正面の写真がそろっていれば、書類づくりは転記が中心の作業になります。ただし、提出する一覧や写真の形式は市の案内に従う必要があり、台帳がそのまま書類の代わりになるわけではありません。制度は年度ごとに見直されることもあるので、最新の内容は公式ページで確認してください。全体の調べ方は大分市の地域猫活動の調べ方にも書いています。
大分県全体の案内としては、大分県の地域猫活動の案内があります。県の地域猫活動の助成は、県の猫不妊・去勢手術助成事業に参加している市町村に登録している団体が対象と説明されています。また、手術を受けた猫は、他の猫と区別するため耳の先が桜の花びらの形にカットされること、「おおいたさくら猫プロジェクト」が市町村・ボランティア・県獣医師会などと協同して、飼い主のいない猫の不妊・去勢手術を無償で行う事業であることも紹介されています。ほかの地域では制度や窓口が違うので、お住まいの市町村に確認してくださいね。
まとめ

この記事のまとめ
- ✓ 個体記録は、手術済みの猫の重複捕獲や未手術の猫の見落とし、引き継ぎの抜けを防ぐための土台になる
- ✓ 台帳の項目は、見た目の特徴・性別・推定年齢・手術の有無と日付・耳カットの確認・健康メモ・写真などを少なめに始める
- ✓ 写真は正面・横向き・撮影日が基本。耳の先が写るように撮っておく
- ✓ 台帳は関係者の間だけで共有し、猫のいる場所や位置情報つきの写真は広く公開しない
- ✓ 大分市では登録時に猫の一覧、助成申請時に手術を実施した猫の一覧と耳カットの写真が必要になる(2026年9月時点・最新は公式ページで確認)
よくある質問
Q. 台帳はノートとスマホのどちらで作るのがよいですか?
どちらでも構いません。続けやすいほうを選んでください。関係者が複数いて共有したい場合は、データのほうが更新の反映が早く便利です。紙の場合も、写真は日付つきでファイルにまとめておくと見返しやすくなります。
Q. 猫に名前をつけたほうがよいですか?
必須ではありません。ただ、番号だけより見分けやすい呼び名があるほうが、関係者の間で共有しやすくなります。呼び名は、グループ内で共通のものにしておくと混乱が減ります。
Q. 手術済みかどうか分からない猫を見かけたときは?
まず、耳の先の形と首輪の有無を確認し、正面の写真を撮っておきます。飼い猫の可能性もあるので、判断に迷う場合は代表者や獣医師に相談してください。
Q. 体調が悪そうな猫がいたときは、どう記録すればよいですか?
日付、様子(食べ方・歩き方・目や鼻の状態など)、できれば写真を残し、早めに代表者や獣医師へ共有してください。原因の判断や薬の使用は、自己判断をせず獣医師に任せましょう。
個体記録は、猫のためであり、続ける人自身のためでもあります。まずはノート1冊と数枚の写真から始めて、活動に合わせて整えていってください。
・・・肝心の猫は、台帳の存在など知らずに、今日も日向ぼっこをしています。
※記事内の制度・金額・期間は2026年9月時点の情報です。地域猫活動の登録や助成の内容は自治体や年度によって異なり、変更される場合があります。最新の内容は、大分市・大分県の公式ページなど各自治体の案内でご確認ください。台帳の項目例は一般的な例であり、公的な様式ではありません。猫の健康に不安がある場合は、動物病院にご相談ください。