「うちの猫、去勢・避妊手術をさせるべき?」と迷っている飼い主さんは多いと思います。結論から言うと、手術には病気の予防や問題行動の軽減といったメリットがある一方で、太りやすくなる・全身麻酔が必要になるといったデメリットもあります。どちらも正しく知ったうえで、かかりつけの獣医師と相談しながら決めることが大切です。
私は不妊去勢手術を専門とする獣医師として、日々多くの飼い主さんから手術についての相談を受けています。この記事では、メリット・デメリット・手術に適した時期・費用の目安を、現場の獣医の立場から整理してお伝えします。

去勢手術・避妊手術とは
まず言葉の整理から始めます。オス猫に行う手術を去勢手術、メス猫に行う手術を避妊手術と呼びます。どちらも生殖に関わる臓器(オスは精巣、メスは卵巣と多くの場合子宮)を摘出し、繁殖できない体にする手術です。
この記事は、ご家庭で飼っている猫(飼い猫)を対象にした手術についての解説です。野良猫(地域猫)の場合は、捕獲・手術・元の場所へ戻すというTNRという枠組みがあり、手術済みの目印として耳の先を桜の花びらのような形にカットするさくらねこの耳カットが行われます。飼い猫の手術とは目的も流れも少し異なるので、混同しないようにしてください。
去勢・避妊手術のメリット
生殖器系の病気を予防できる
もっとも大きなメリットは、生殖器に関わる病気のリスクを下げられることです。オスは精巣の病気、メスは卵巣や子宮の病気を、臓器そのものを摘出することで根本的に予防できます。
メスの乳腺腫瘍についても予防効果が報告されています。生後6ヶ月未満で避妊手術を受けた猫では91%、生後7〜12ヶ月で受けた猫では86%の予防効果があると報告されています。手術のタイミングが早いほど、この予防効果は高くなる傾向があるとされています。
感染症のリスクを下げられる
メス猫は交尾によってうつる感染症のリスクがあります。避妊手術をすることで、こうした感染のリスクを下げることができます。
発情期の問題行動が軽くなる
未去勢のオス猫は、尿を撒き散らして縄張りを主張する「スプレー行動(尿マーキング)」をすることがあります。また、発情期のメスは大きな声で鳴き続けたり、落ち着きがなくなったりします。手術によってホルモンの分泌が変わることで、こうした行動が軽くなるケースは多く見られます。完全な脱走防止にはなりませんが、発情に伴う脱走欲求が下がることも、間接的なメリットのひとつです。
去勢・避妊手術のデメリット
太りやすくなる
手術後はホルモンバランスが変わり、代謝が落ちるため太りやすくなります。手術前と同じ量のフードを与え続けていると、体重が増えてしまうことがあります。手術後は食事のカロリーを見直すか、「避妊・去勢した猫用」に作られたフードへの切り替えを、かかりつけの獣医師と相談しながら検討することをおすすめします。
全身麻酔が必要になる
去勢・避妊手術は全身麻酔をかけて行います。麻酔にはリスクがゼロではなく、健康な猫の全身麻酔による死亡率は0.11%と報告されています。数字としては低いものですが、リスクをできるだけ抑えるために、事前の術前検査で猫の健康状態を把握したうえで、その子に合った麻酔薬を選んで手術を行います。
一度手術すると元には戻せない
去勢・避妊手術は、臓器を摘出する不可逆な選択です。繁殖を望む可能性が少しでもある場合は、手術前によく考えておく必要があります。迷いがあるときは、手術のタイミングを含めてかかりつけの獣医師に相談してください。
手術に適した時期
一般的に推奨されているのは、最初の発情を迎える前の生後6ヶ月前後です。発情前に手術をすることで、メリットの章で触れた病気の予防効果を最大限に得やすいとされています。
最近では、これよりも早い生後3〜4ヶ月齢での手術を推奨する考え方も出てきています。ただし、早期の手術が向くかどうかは猫の体格や健康状態によっても変わります。最適なタイミングは、かかりつけの獣医師と相談しながら決めることが最も大切です。
費用の目安(2026年8月時点)
費用は動物病院ごとの自由診療のため、同じ地域でも病院によって2〜3倍の差が出ることがあります。あくまで目安として参考にしてください。
| 手術 | 費用の目安(総額) | 備考 |
|---|---|---|
| オスの去勢手術 | 15,000〜25,000円 | 手術のみなら10,000〜25,000円程度。日帰りが一般的で、避妊より安価な傾向 |
| メスの避妊手術 | 25,000〜55,000円 | 開腹して行うため、去勢より手術時間が長くなります |
費用が変わる主な要因は、地域・術前検査の範囲・病院の規模、そして自治体の助成金の有無です。お住まいの自治体によっては、飼い猫の去勢・避妊手術に3,000〜10,000円程度の助成金を出している場合があります。制度の有無や金額は自治体ごとに異なるため、お住まいの市区町村の窓口やホームページで確認してみてください。
よくある質問
Q. 手術後に太らせないためにはどうすればいいですか?
手術前と同じ量のフードを与え続けないことが基本です。避妊・去勢後の猫向けに作られたフードへの切り替えや、体重に応じた給与量の見直しを、かかりつけの獣医師に相談しながら進めてください。
Q. 高齢の猫でも手術できますか?
年齢だけで一律に判断できるものではなく、そのときの健康状態によって手術の可否が変わります。持病がある場合や高齢の場合は、術前検査の結果をもとに、かかりつけの獣医師とよく相談してください。体調に不安がある場合は、まずかかりつけの動物病院を受診することをおすすめします。
Q. 手術をすれば性格が変わってしまいますか?
ホルモンの影響による発情期特有の行動は落ち着く傾向がありますが、その子本来の性格が大きく変わるわけではありません。個体差もあるため、気になる変化があればかかりつけの獣医師に相談してください。
まとめ
この記事のまとめ
- ✓ 去勢・避妊手術のメリットは、生殖器系の病気の予防、感染症リスクの低下、発情期の問題行動の軽減
- ✓ デメリットは、太りやすくなること、全身麻酔のリスク、そして一度手術すると元には戻せないこと
- ✓ 時期の目安は生後6ヶ月前後。早期手術(生後3〜4ヶ月齢)を勧める考え方もあり、最適なタイミングはかかりつけの獣医師と相談を
- ✓ 費用はオス15,000〜25,000円、メス25,000〜55,000円が目安。自治体の助成金が使える場合もある
去勢・避妊手術は、一度決めたら元には戻せない選択です。メリットとデメリットの両方を理解したうえで、その子にとって一番良いタイミングと方法を、かかりつけの獣医師とじっくり相談して決めてください。
※記事内の数値は2026年8月時点の一般的な目安です。費用は地域や動物病院により、予防効果や麻酔のリスクは個体差により異なります。詳しくは公式情報やかかりつけの獣医師にご確認ください。