「猫白血病ウイルス(FeLV)に感染するとどうなるの?」「野良猫に触れて、うちの猫にうつらない?」。
地域猫の活動や野良猫のお世話をしていると、こうした不安に必ず突き当たります。
結論から言うと、猫白血病ウイルスは唾液を介してうつる感染症で、年齢や感染時期によって経過が大きく変わります。
正しく知っておくことが、猫を守る一番の近道なんですよね。
私は大分県で不妊去勢手術を専門とする獣医師で、長崎でも地域猫の活動に関わっています。
この記事では、猫白血病ウイルスの基本に加えて、検査結果の読み方や、陽性の猫との暮らし方の工夫まで整理しました。
できるだけ専門用語を使わずに書きます。
・・・獣医の話は、放っておくと横文字だらけになりますので(汗)。
猫白血病ウイルス(FeLV)とは

猫白血病ウイルス(FeLV:Feline Leukemia Virus)は、猫同士でうつるウイルス感染症の一つです。
「白血病」という名前がついていますが、血液のがんだけを引き起こすわけではありません。
免疫力の低下や貧血など、さまざまな体調不良につながる可能性があるウイルスだ、とイメージしておくとわかりやすいと思います。
感染力はそれほど強くなく、環境中では長く生きられないとされています。人にはうつりません。
まずはここを押さえておくだけで、だいぶ気持ちが楽になるはずですよ。
感染経路:唾液となめ合いが主な原因

猫白血病ウイルスの主な感染源は唾液中のウイルスです。
同居している猫同士が頻繁になめ合う(グルーミングし合う)と、そこから感染が広がることがあります。
食器やトイレの共有、ケンカによる咬み傷なども経路になり得ますね。
つまり、同じ空間にいるだけで即座に感染が広がるわけではなく、猫同士の濃厚な接触がある環境で伝播しやすいということです。
うつりやすい場面・うつりにくい場面
| 場面 | 考え方 |
|---|---|
| 同居猫同士のなめ合い | 主な経路。仲が良いほど接触が増える |
| 食器・水入れ・トイレの共有 | 唾液が付くので経路になり得る |
| ケンカの咬み傷 | 外に出る猫で起きやすい |
| 同じ部屋にいるだけ | 直接の接触がなければ広がりにくいとされる |
気をつけたいのは、猫は仲良しほど顔をなめ合うという点です。
「仲が良いから大丈夫」は、この病気に関しては逆なんですよね。
症状:出るまでに時間がかかることがある

感染してすぐに症状が出るわけではありません。
JBVP(日本臨床獣医学フォーラム)の情報によると、感染後1〜2ヶ月ほどで発熱や食欲不振が見られることがあるとされています。
この時期の不調は風邪のような症状に見えることもあって、飼い主さんが「様子を見よう」と判断してしまいやすいタイミングでもあるんですよね。
受診の目安にしたいサイン
次のような変化が続くときは、いつもの風邪と決めつけずに受診を考えてくださいね。
- 食欲が落ちた、体重が減ってきた
- 熱っぽい、元気がない状態が何日も続く
- 歯ぐきや舌の色が白っぽい(貧血のサインの一つとされます)
- 鼻水・目やに・下痢などの不調を繰り返す
どれも猫白血病ウイルスだけに出るサインではありません。ですから「この症状ならこの病気」と自己診断はできないんですよ。
猫は体調不良を隠す習性があるんですが・・・、少しの元気消失や食欲の変化でも軽く見ないようにしたいところです。
特に外に出る猫、多頭飼育で新しい猫を迎え入れた家庭では、いつもと違う様子があれば早めに動物病院を受診してくださいね。
免疫が落ちている猫は、同じ風邪でも長引いたり繰り返したりしやすいとされています。回数が増えてきたら、それ自体がサインだと考えてください。
検査のタイミングと「陽性」の意味

猫白血病ウイルスの血液検査は、感染から3〜4週間ほどで陽性化するとされています。
つまり感染直後に検査しても、すぐには結果に出ないことがあるということなんですよね。
検査を考えるタイミング
- 野良猫を保護したとき(先住猫と合流させる前に)
- 新しい猫を迎える前
- ワクチン接種を検討するとき(感染の有無を先に確認しておくのが一般的です)
「陽性」が出たときの考え方
ここが誤解されやすいポイントなんですが、検査で陽性が出ても、それがそのまま「一生このウイルスと付き合う」ことを意味するわけではありません。
猫の免疫力によっては、陽性反応が出たあと4ヶ月ほどの間に自然に陰転する(ウイルスを排除して陰性に戻る)ケースがあります。
そのため、初回で陽性が出た場合は期間をおいて再検査を行い、4ヶ月後も陽性が続いていれば「持続感染」と判断するのが一般的な考え方です。
| 検査結果 | 考え方 | 次にすること |
|---|---|---|
| 初回が陰性(接触から日が浅い) | まだ結果に出ていない可能性がある | 期間をおいた再検査を相談 |
| 初回が陽性 | 一過性か持続感染かはまだ分からない | 他の猫と分けて、期間をおいて再検査 |
| 4ヶ月後も陽性 | 持続感染と判断されるのが一般的 | 暮らし方を獣医師と相談(後述) |
よくある失敗は、保護した直後に1回だけ検査して「陰性だった」で安心してしまうことです。
一度の検査結果だけで悲観しすぎず、楽観しすぎず、獣医師と相談しながら経過を見ていくのがいちばんですよ。
・・・待つ側はつらいんですけどね。当の猫は、再検査の日もいつもどおり昼寝をしています。
感染した年齢によって、経過は大きく変わる

猫白血病ウイルスの特徴として押さえておきたいのが、感染した時の年齢によって持続感染になる割合が大きく異なるという点です。
年齢が上がるほど、猫自身の免疫力でウイルスを排除できる可能性が高くなるんですね。
| 感染した時期 | 持続感染になる割合の目安 |
|---|---|
| 出生時(母猫から) | ほぼ100% |
| 離乳期を過ぎてからの感染 | 約50% |
| 1歳以上での感染 | 10%程度 |
この表からも分かるとおり、子猫の時期の感染ほど深刻な結果につながりやすいというのが特徴です。
母猫が感染している場合は生まれてくる子猫への影響が大きく、逆に成猫になってからの感染なら、体が自分でウイルスを排除できる可能性も十分にあります。
表の読み方で気をつけたいこと
- 数字はあくまで目安です。同じ年齢でも体力や栄養状態で結果は変わります
- 「10%程度」は「ゼロ」ではありません。成猫でも持続感染になる猫はいます
地域猫の活動で子猫を保護したときに、母猫のほうも気にかけるのはこのためなんですよ。
子猫だけ助けて母猫をそのままにすると、翌年また同じことが起きます。猫の繁殖は、こちらの反省を待ってくれませんので。
持続感染になった場合について

持続感染と判断された猫について、JBVPの情報では発病した猫のほとんどは3〜4年以内に命を落とすとされています。
これは決して軽い話ではありません。
一方で「発病した猫」に関する数字であって、持続感染=すぐに発病するという意味ではないことも、知っておいてほしいところなんですよね。
持続感染の猫は、免疫力が低下している状態が続くため、他の病気にかかりやすくなる点にも注意が必要です。
陽性の猫と暮らすときの工夫
- 完全室内飼いにする。他の猫にうつさないためでもあり、本人が外で別の病気をもらわないためでもあります
- 同居猫がいる場合は、生活空間と食器・トイレを分ける
- 定期的な健康チェックを受ける。体重と食事量を記録しておくと変化に気づきやすくなります
- 新しい猫を迎えない。陽性の猫にも、迎える猫にも負担になります
- 引っ越しや模様替えなど、急な環境の変化を避ける
効果を断定することはできませんが、獣医師と相談しながら、その子に合った過ごし方を一緒に考えていきたいところです。
「ストレスの少ない環境」と言うのは簡単なんですが、何をストレスと感じるかは猫が決めます。
掃除機は許せても、新しいカーテンは許せなかったりするんですよ。
予防でできること

猫白血病ウイルスの予防として、ワクチン接種が選択肢の一つとして推奨されています。
特に1歳未満の未接種の猫が外に出ることには注意が必要です。
ワクチンを受けたからといって感染を完全に防げると保証されているわけではありませんが、リスクを踏まえたうえでかかりつけの獣医師に相談してみてくださいね。
ワクチンを考えるときの注意点
- 接種の前に、検査で感染の有無を確認しておくのが一般的です
- 完全室内飼いで同居猫もいない場合など、必要性は暮らし方で変わります
- 接種の回数や間隔、費用は動物病院によって異なります。かかりつけの動物病院で最新の情報を確認してくださいね
感染が分かっている猫については妊娠させないことも大切なポイントです。
母猫から子猫への感染はほぼ避けられないため、繁殖を控えることが、次の世代の猫を守ることに直結します。
多頭飼育で1匹でも陽性の猫がいる場合は、完全に生活空間を分ける、食器を共有しないなど、なめ合いの機会を減らす工夫も有効ですよ。
外に出る猫の不妊去勢手術は、感染リスクのあるケンカや発情行動そのものを減らすことにもつながります。
TNRという活動については別の記事で詳しく解説していますので、あわせて読んでみてくださいね。
予防が効いている猫ほど、病院とは縁が薄くなります。縁が薄いのがいちばんなんですけどね。
野良猫と関わるときに知っておきたいこと

地域猫の活動をしていると、体調の悪そうな野良猫に出会うことがあります。
持病の有無は見た目だけでは判断できないため、気になる様子があれば、まずは動物病院に相談するのが一番安全な選択です。
野良猫に触れたあと、家の猫を守るには
- 外の猫を触ったら、帰宅後すぐに手を洗い、できれば服も着替える
- 外の猫用の食器や毛布を、家の猫と共用しない
- 家の猫を外に出さない(外の猫との接触そのものを減らす)
- 家の猫のワクチンについて、かかりつけに相談しておく
保護した猫を家に迎えるときの手順
- 先住猫とは別の部屋に入れ、扉を閉めて隔離する
- 早めに動物病院で検査を受ける(結果が出るまで隔離を続ける)
- 陰性でも、接触からの日数が浅ければ期間をおいた再検査を相談する
- 再検査まで問題なければ、少しずつ対面させる
- 陽性だった場合は、分けたまま獣医師と今後の暮らし方を相談する
野良猫を保護して病院に連れて行く際の準備や、費用の考え方については野良猫を病院へ連れて行く準備の記事でまとめています。
すでに不妊去勢を終えた猫の目印である耳カット(さくらねこ)についても、別記事で解説していますので参考にしてくださいね。
そもそも地域猫とは何か、野良猫とどう違うのかは地域猫とはの記事にまとめています。
臼杵のような地方の町では、動物の相談先が限られていると感じる方もいるかもしれません。
動物の愛護・管理を担う公的な施設として、たとえば大分県には大分県動物愛護センターがあります。
ただし個別の猫の相談窓口として明記されているわけではありません。
実際に相談したいときは、お住まいの自治体の窓口や、かかりつけ・近隣の動物病院にまず連絡してみてくださいね。
まとめ

この記事のまとめ
- ✓ 猫白血病ウイルスは唾液を介して感染し、同居猫同士のなめ合いが主な感染経路
- ✓ 感染後1〜2ヶ月で発熱・食欲不振が出ることがあり、検査は感染から3〜4週間で陽性化する
- ✓ 陽性でも4ヶ月ほどは陰転の可能性があり、4ヶ月後も陽性なら持続感染と判断する
- ✓ 持続感染になる割合は感染時の年齢で大きく変わり、子猫期ほど高くなる
- ✓ ワクチンや妊娠させないことなど、できる予防を重ねつつ、体調の変化があれば早めに受診を
猫白血病ウイルスは、正しく知っていれば過度に恐れる必要のない病気です。
大切なのは、感染を早期に見つけること、そして感染が分かった猫にも無理のない環境を用意してあげることだと考えています。
気になる症状があれば、自己判断せずにかかりつけの動物病院に相談してください。
猫は検査の意味も、再検査の意味も知りません。知っているのは、こちらだけですからね。
※本記事の内容は2026年8月時点の情報です。感染経過や持続感染率には個体差があり、地域や個々の猫の状態によっても異なります。診断・治療方針については、必ずかかりつけの動物病院にご相談ください。