「保護した猫が、後ろ足でしきりに耳をかいている」「耳の中に黒い耳あかがびっしりついている」。そんなときに疑われる病気のひとつが耳ダニ症(耳疥癬=みみかいせん)です。ミミヒゼンダニというごく小さなダニが耳の中に寄生して外耳炎を起こす病気で、猫同士の接触でうつるため、外で暮らしていた猫や保護したばかりの子猫では珍しくないんですよ。
大分県で不妊去勢手術を専門とする獣医師で、長崎でも保護猫・地域猫の活動に関わっています。この記事では、耳ダニ症の基礎知識と気づくためのサイン、名前の似た「疥癬」との違い、そして保護したときや多頭飼いでの注意点を、一般的な情報として整理します。
耳ダニ症(耳疥癬)とは?ミミヒゼンダニによる外耳炎

耳ダニ症は、ミミヒゼンダニ(耳ヒゼンダニ)というダニが耳の中(外耳道)に寄生して起こる外耳炎です。ダニは耳あかや皮膚の分泌物を食べながら増えていき、猫には強いかゆみが出ます。肉眼ではほとんど見えない大きさなので、飼い主が「ダニがいる」と気づくことはまずありません。気づくきっかけになるのは、あとで触れる黒い耳あかと、頭を振るしぐさなんですよ。
感染経路は、すでに寄生されている猫との接触が中心です。感染力が強く、母猫から子猫へ、あるいは猫同士のグルーミングや寄り添いで簡単に広がります。外で暮らす猫や、多くの猫が集まる環境で見られやすいのはこのためなんですね。
「疥癬」と名前が似ていますが、原因のダニは別です
混同されやすいのが、皮膚の病気である疥癬(かいせん)です。疥癬の原因はネコショウセンコウヒゼンダニで、寄生する場所は体の皮膚。耳のふちや顔にかさぶた・フケが出て、全身に広がっていくことがあります。一方の耳ダニ症の原因はミミヒゼンダニで、寄生するのは耳の中です。どちらも「ヒゼンダニ」という名前がつくので同じ病気だと思われがちですが、別の種類のダニによる別の病気で、治療の進め方も動物病院での判断が必要になるんですよ。
また、草むらで体に食いつく大型のマダニとも別物です。「耳が黒い=マダニがいる」ではありません。名前が似ているだけに・・・、思い込みで対処しないことが大切です。
黒い耳あかと頭ふり——気づくためのサイン

耳ダニ症で目立つのは、次のような様子です。心当たりがないか確認してみてくださいね!
- 後ろ足でしきりに耳をかく、頭をぶんぶん振る
- 耳を壁や床、家具の角にこすりつける
- 耳の中に黒っぽく乾いた耳あかがびっしりたまっている
- 耳のまわりをかき壊して、毛が抜けたり出血したりしている
- 耳をさわられるのを強く嫌がる
とくに、コーヒーかすのような黒い耳あかが両耳にたまっているときは、耳ダニ症をまず疑います。ただし、これだけで確定できるわけではありません。
黒い耳あか=必ず耳ダニ、とは限りません
耳あかが増える原因はほかにもあり、見た目が似ることがあるんですよ。
| 主な原因 | 耳あかの様子 | 補足 |
|---|---|---|
| 耳ダニ(ミミヒゼンダニ) | 黒っぽく乾いたものが大量に | かゆみが強い。猫同士でうつる |
| マラセチア(真菌の一種) | 茶褐色でべたつく | においを伴うことがある |
| 細菌の感染 | 黄色っぽい、膿のような | かき壊しから二次的に起こることも |
| アレルギーなど | 量が増える・湿っぽい | かゆみから外耳炎に進むことがある |
これらは重なって起きていることもあり、見た目だけで区別するのは獣医師でも難しいものです。次に説明する検査で確かめるのが確実な道になります。
診断と治療は動物病院で

動物病院では、綿棒などで耳あかを少し取って、顕微鏡でダニやその卵を確認するのが一般的な流れです。同時に、マラセチアや細菌が混ざっていないかもあわせて調べます。耳の奥や鼓膜の状態を確認したうえで、その猫に合った治療を組み立てていきます。
治療は、耳の洗浄でダニと耳あかを物理的に減らしたうえで、獣医師が処方する駆虫薬を使っていくのが基本の流れです。ここで知っておいてほしいのが、お薬は卵には届かないという点。卵から新しいダニがかえってくるため、そのサイクルに合わせて投薬を数回くり返し、数週間かけて仕上げていきます。2026年8月時点で一般に説明されている目安は、卵がかえるまで数日、治療期間はおおむね3〜4週間から1か月ほどですが、状態によって変わるので、途中で「治ったように見える」からと自己判断でやめないことが大切です。
市販の耳掃除液や綿棒での自己流ケアは避けてください
「まず耳をきれいにしてあげよう」と思いたくなるところですが、原因がはっきりしないうちの自己流の洗浄はおすすめできません。理由は3つあります。
- 洗浄で耳あかを流してしまうと、顕微鏡でダニを見つけにくくなり、診断が遠回りになってしまうことがある
- 綿棒は耳あかを奥へ押し込んだり、動いた拍子に耳の中を傷つけたりしやすい
- 鼓膜の状態がわからないまま洗浄液を入れると、耳の奥に負担をかけることがある
かゆがっている姿を見るのはつらいものですが、耳の中はとても繊細な場所です。触る前にまず一度、動物病院で診てもらうことをおすすめします。
保護したとき・多頭飼いのときの注意

耳ダニ症でいちばん現実的な問題は、ほかの猫にうつることです。保護したばかりの猫を先住猫と会わせる前に、次の3点を押さえておくと落ち着いて対応できますよ。
1. 先住猫と一緒にする前に、動物病院で健康チェック
外にいた猫や拾った子猫は、耳ダニに限らずノミやほかの感染症を持っていることも珍しくありません。合流前に一度診てもらい、そのときに耳の中も見てもらうと安心です。保護直後の動きは子猫を拾ったときの対応、費用や持ち物の準備は野良猫を病院へ運ぶ準備も参考にしてください。
2. 感染が確認されたら、部屋を分けて過ごす
感染力が強い病気なので、確認できるまでは別室・別ケージで過ごさせます。同居猫がいる場合、症状が出ていない猫も含めてどう対応するかは獣医師と相談してください。多頭で暮らしていると、1匹だけ治しても行ったり来たりをくり返すことがあるんですよね。
3. 寝床・キャリー・ブラシの管理
ミミヒゼンダニは、猫の耳から離れても環境中で一定期間(2026年8月時点で一般に3週間ほどとされています)生きられると説明されています。タオルや毛布は洗濯し、ケージやキャリーは掃除する。ブラシや爪切りは猫ごとに分けるか、使うたびに洗う。特別なことをしなくても、この積み重ねで再感染のリスクはかなり下げられますよ。
人にうつることはある?

ミミヒゼンダニは、人の肌にも一時的に移ってかゆみや小さな発疹を起こすことがあります。ただし人の体では繁殖できないため、猫側の治療が進めば自然におさまっていくのが一般的です。過度に怖がる必要はありませんが、猫や寝床にさわったあとは手を洗う習慣をつけておいてください。かゆみや発疹が数日たっても続くなら、自己判断せず皮膚科を受診してください。
外の猫で見かけたときは

飼い主のいない猫でも、頭を振り続けていたり耳をかき壊していたりする様子は外から見て取れることがあります。捕獲して動物病院につなげられれば、治療の対象にできる場合があります。不妊去勢手術のために捕獲するタイミングで耳の中も確認してもらえることがあるので、手術を予約する段階で病院に相談しておくとスムーズですよ。地域の猫を捕獲して手術や治療につなげる仕組みはTNRの基礎知識にまとめています。判断に迷うときは、地域の保護団体や自治体の動物担当窓口に相談してください。
よくある質問
Q. 耳ダニは放っておいても治りますか?
自然に治るのを期待できる病気ではありません。かゆみでかき壊した傷から炎症が悪化したり、耳の奥に炎症が広がったりすることもあります。早めに動物病院で診てもらってください。
Q. 片方の耳だけ黒い耳あかが出ます
耳ダニ症は両耳に及ぶことが多いとされますが、片側で目立つこともあります。逆に、片耳だけの場合はほかの原因が隠れていることもあります。左右差があるかどうかも含めて、診察のときに伝えてください。
Q. 手術のときに一緒に診てもらえますか?
不妊去勢手術に合わせて、耳の状態の確認やノミ・ダニへの処置を行う病院もあります。対応は病院ごとに異なるので、予約のときに「耳を気にしているようだ」と伝えて相談してみてください。
まとめ

この記事のまとめ
- ✓ 耳ダニ症(耳疥癬)はミミヒゼンダニが耳の中に寄生する外耳炎。黒い耳あかと頭ふりが代表的なサイン
- ✓ 皮膚の病気である疥癬(ネコショウセンコウヒゼンダニ)やマダニとは、原因のダニが別物
- ✓ 黒い耳あかはマラセチアや細菌が原因のこともあり、耳あかの顕微鏡検査で確かめる
- ✓ 市販の耳掃除液や綿棒での自己流ケアは避け、触る前に動物病院へ
- ✓ 保護時は合流前の健康チェック・部屋を分ける・寝床やブラシの管理の3点で、ほかの猫への広がりを防ぐ
耳ダニ症は、気づいて動物病院につなげられれば改善が期待できる病気です。「よく耳をかいているな」という小さな違和感は、猫が出しているサインかもしれません。保護したばかりの猫と暮らし始めるときは、耳の中をのぞく習慣をひとつ増やしてみてくださいね。
※本記事の内容は2026年8月時点の一般的な情報であり、特定の猫の診断や治療方針を示すものではありません。症状の出方・治療期間・費用は個体や動物病院によって異なります。気になる様子がある場合は動物病院を、人の皮膚症状は皮膚科を受診してください。