「捕獲器を開けたら、思ったより傷だらけだった」。TNR活動をしていると、こういう場面に何度も出くわします。ケンカの引っかき傷なのか、もっと古い傷なのか、その場ではわからないことも多いんですよね。
猫は痛みを隠すのが得意な生き物です。平然と歩いているように見えて、実はけっこう無理をしている・・・なんてこともよくあります。
私は大分県で不妊去勢手術を専門とする獣医師で、長崎でも保護猫・地域猫の活動に関わっています。この記事では、捕獲後に外傷が見つかったときの初動から、動物病院に連れて行くかどうかの判断基準までを整理します。
ふだんの通院と違って、TNRの現場では猫を病院に慣らす時間がありません。捕獲したその日のうちに、傷の状態を見て決めなければならない場面が出てきます。だからこそ、あらかじめ「どこを見るか」「どこまでが自分でできる範囲か」を知っておくと、いざというときに慌てずに済みます。
なお、麻酔から覚めたあとの管理(いつリターンするか)は別のテーマです。今回の主役は、あくまで「傷」のほうです。
捕獲後に外傷を見つけたら、まず確認すること

捕獲器を覗いたとき、まず落ち着いて見るのは次の2点です。
出血が止まっているか。そして、猫の元気があるかどうか。
出血が止まらない場合や、猫がだんだん元気をなくしていくような場合は、緊急性が高いと考えられます。捕獲後は様子を見ず、速やかに動物病院に連れて行くのが基本です。
猫の体内を巡る血液の量は、目安として200〜300ccほどしかないと言われています。人間から見て「このくらいなら平気そう」と感じても、猫にとっては体全体に対する割合がまったく違うんですよ。少なく見える出血でも、侮らないほうが安全です。
・・・猫の体は、人間が思っているよりずっとコンパクトにできています。
捕獲器の中で猫がじっとしていても、それが「落ち着いている」のか「動けないほど弱っている」のかは、慣れていないと区別がつきにくいものです。迷ったときは、様子見という選択肢を一度手放してみてください。
応急処置の一般的な流れ

受診の前にできる応急処置として、一般的に紹介されているのは次のような流れです。
- 可能であれば、傷口を清潔な水で洗う
- 出血しているなら、清潔なガーゼなどで軽く圧迫する
- そのうえで、動物病院を受診する
猫同士のケンカによる引っかき傷や咬み傷は、見た目が小さくても油断できません。傷口から細菌が入り、時間が経ってから化膿してしまうことがあるからです。化膿する前に、一度動物病院で全身を診てもらうのが安心です。
見た目の傷の大きさと、体の中で起きていることは、一致するとは限りません。応急処置はあくまで受診までの「つなぎ」であって、治療そのものではない、という前提も忘れないでください。
・・・厄介なのは、たいてい「たいしたことなさそう」に見えるほうなんですよね。
動物病院に連れて行くかどうかの判断基準

目安をいくつか並べておきます。
- 出血が止まらない、あるいは猫の元気がだんだんなくなっていく場合は、様子を見ずに動物病院へ
- 引っかき傷や咬み傷は、小さく見えても早めに全身を診てもらう
そしてもう一つ、TNRの現場ならではの注意点があります。捕獲のとき、猫が激しく暴れて、こちら側の人間が引っかかれたり噛まれたりすることも珍しくありません。この場合、猫ひっかき病などの感染症のリスクがあるため、人間側も受診したほうがよいとされています。
猫を心配しているつもりが、気づけば自分の腕にも傷が増えている。TNRの現場では、よくある話なんですよね。
傷の状態がよくわからないときは、無理に自分だけで判断しようとせず、動物病院に電話でようすを伝えて相談するのも一つの方法です。写真を撮っておくと、電話越しでも状況が伝わりやすくなります。
手術後のリターンについては別記事で

なお、手術を終えた猫をいつリターンするかという話は、麻酔からの覚め方や誤嚥を防ぐための管理も絡む、また別のテーマです。しっかり覚醒してから解放する、という点だけここでは押さえておいてください。今回はあくまで、捕獲後に見つかった傷への対応に絞ります。
大分市の負傷猫保護制度

大分市には、ケガをしている猫を見つけた場合に、大分市動物愛護センターの職員が保護に来てくれる制度があります(2026年9月時点)。臼杵で活動していても、大分市内の案件ではこの窓口を紹介することがあります。
電話番号や住所はここには書きません。詳しい連絡先や対応の条件は、大分市の公式案内ページでご確認ください。
大分市動物愛護センターがどんな窓口なのか、もう少し詳しく知りたい場合は、愛護センターの相談の流れもあわせてどうぞ。
こうした窓口があるかどうかは自治体によってさまざまです。お住まいの地域に同じような制度があるかは、まずは自治体の公式サイトで確認してみてください。
まとめ

捕獲後に傷を見つけたら、まず出血の有無と猫の元気を確認する。応急処置は清潔な水と圧迫まで。その先の判断に迷ったら、動物病院と、必要なら地域の相談窓口を頼ってください。
この記事のまとめ
- ✓ 出血が止まらない・元気がなくなる場合は、様子を見ずに動物病院へ
- ✓ 猫同士の傷は小さく見えても化膿の恐れがあるため、早めの受診が安心
- ✓ 応急処置は「清潔な水で洗う→出血時は清潔なガーゼで圧迫→受診」が基本
- ✓ 捕獲時に人間側が引っかかれ・噛まれた場合も、感染症リスクがあるため受診を検討
- ✓ 大分市には負傷猫の保護制度があり、詳細は公式ページで確認できる
よくある質問
Q. 傷が小さいので、様子を見てもいいですか?
小さく見える傷でも、化膿のリスクがあるため、一度動物病院で全身を診てもらうのが安心です。特に猫同士のケンカによる引っかき傷や咬み傷は、時間が経ってから悪化することがあります。
Q. 捕獲した猫が病院を怖がって暴れます。無理に連れて行っても大丈夫ですか?
捕獲器に入れたままの状態であれば、猫にも人にも比較的安全に運べます。捕獲器から出さずに、そのまま動物病院へ向かってください。
Q. 自分も引っかかれてしまいました。病院に行くべきですか?
猫ひっかき病などの感染症リスクがあるため、傷の状態によっては医療機関への相談を検討してください。傷口を清潔にしたうえで、経過に注意することが大切です。
Q. 傷の写真は撮っておいたほうがいいですか?
撮っておくと、電話で相談するときや、実際に受診したときに状況を説明しやすくなります。日付ごとに変化がわかるようにしておくと、あとで見返したときにも役立ちます。
傷の有無を確認するのは、捕獲した瞬間からもう始まっています。慌てず、出血と元気の2点だけ、まず見てあげてください。猫のほうは、そんな人間の心配などどこ吹く風でしょうけれど。
※本記事の内容は2026年9月時点の一般的な情報です。症状の程度には個体差があり、対応や制度は動物病院・自治体によって異なる場合があります。大分市の制度については、公式サイトでご確認ください。